間違って違う子の名前、呼ばれないといいな

「酔って会いたくなるって、それ、好きじゃん」

え、木曜深夜1時に言う「会いたい」が愛なわけないじゃん 愛があったら言えないよそんなこと

ひとつ前の夏に大好きだった男の子にあの夜言われた会いたいを思い出した あれ断ったのは間違えだったって今でも思う だから今度は間違いたくない 「わたしも会いたい」なんて返したりして だって本当は会いたいとかそんなことより 会えなくなるのが怖いんだよって そんなの伝えても意味ないし キリないし

今夜言う「可愛い」はぜんぶ覚えてないんだろうな 間違って違う子の名前、呼ばれないといいな 間違って「好き」とか、言わないかな なんて考えながら頬に触れて もう一瞬で寝息をたてて眠りに落ちてて あーあなんだか置いてかれちゃった気分 小さい頃お母さんが先に寝ると寂しくてたまらなかった お母さんはもう明日の朝に居るって思うと 今日って世界にひとりぼっちで取り残された気分になった

あーこんなのあの子に知られたらまた怒られちゃうな 昨日の夜あんなに優しくしてくれた男の子も、わたしのことが心底嫌いになるだろうな まあいっかそれくらい 自分のこと好きになってくれる男の子なんてたくさんいるの もう優しくされるの飽きたんでしょって 優しくないこの人に言われた時にたしかにって思っちゃった

朝となりで寝てるのを見たとき こんな朝は二度と来ないだろうし来たらダメだよって よれたコアラのぬいぐるみがわたしに向かって言ってる気がした マスカラを塗ってるときに起きてきた彼は少し焦ってて ごめんねって言いながら3回キスをした リップを塗る前でよかったあ なんて考えた 

帰り際に玄関で強く強く抱きしめられた なんだか少し痛いくらいに強かった 抱きしめられながら、そういえば今週3人目、抱きしめられたの、3人目 なんて思い出してちょっとだけ悲しくなったりした 何の意味もないこんな行為に、悲しくなった 触れられることでしかこの世に存在できない気がしてた 

 

何回も言うけど、ぜんぶうそです、うそなんです

鯨とミジンコ

あの日の話覚えてないかな、覚えてないよね。1人でぬるいお湯に浸かりながら、ぽつりぽつりと、自分の頭の中に浮かぶ前の、言葉と呼んでもいいのかわからないようなことばを呟いてます。誰かに伝えたいわけじゃないし、自分で覚えておきたいわけでもない。そんな無意味なもののせいで涙が出たりします。声に出すと全部ほんとになるって聞いたけど、声に出すと全部自分からするりと抜けていくような気がしてます。そうやって君も居なくなったらいいななんて思います。でも居なくなったらいいのは君よりもわたしだし、誰よりもわたしです。

もう全部なかったことでいいなと思います。でもわざわざなかったことにしなくても、とっくに君の中には残ってないし、わたしが今日死んだとしても君は知らない。近所の野良猫が居なくなったからって、探すわけない、興味もない。

なんか死ぬとかそんなこと言うと嫌がられるけど、生きてるんだから死ぬものです。実家に帰ればお母さんは精神科の薬を飲みます。お父さんにはお母さんみたいになるなよと言われます。お兄ちゃんはちょっとだけ優しい。だけどわたしは誰にも言えずに1人で泣きます。だってみんな居るのに居ないから。ひとりぼっちはわたしだけ。お金がないから稼ぎます。一生懸命働いたってお金は増えない、でもわたしは若くて少し可愛いから、価値があるって言われます。価値はお金にかわります。お金があれば生きてけるけどお金を手にするには死ななきゃならない。それって馬鹿にはよくわからない。なんだか価値とか関係なしに人に優しくされたいと思う日があります。ごめんなさい。でもそんなのいつも許されないし、結局何かを払って何かをもらう、それだけだってわかります。だから君も居なくなる。それだけだってわかります。こんなこと伝えたらまた遠くに行っちゃう気がします。だから絶対言わないけど、どうせ居なくなるなら言いたいなとかも思います。無意味なことが好きなわたしを、君はほんとに嫌うだろうな。

消費税って上がるんだっけ

晴れた土曜日、渋谷の端っこ。いつも通りの狭い浴槽。床に溢れた真っ白い泡。まだ冷めてない、熱いお湯。部屋から聞こえる、つけっぱなしのテレビの音。

今日もわたしの前にいるこの人は、間抜けな顔で寝息を立てて、浴槽の淵に置かれた右手が今にも泡の中に落ちてしまいそう。脚を揉む手を止めて「起きて」と頬に触れてみる。薄く開いた片目で「可愛いね」と囁いて、またすぐ眠りに落ちていく。よくある歌の歌詞、こんなに近くにいるのに遠くに感じるとかってやつ、こういうことだと納得した。見惚れるくらいかっこいいけど、寝顔はいつも間抜けだな、それほどわたしに興味がないってことだよな。

いつだってわたしの下手なマッサージを褒めてくれる。本当は違う。ダメ出しをしないのは期待をしていないからだと分かる。100円ショップで買った充電ケーブルなんてすぐ壊れる。だけど今必要だから、少しでいいから充電したい、110円なら良いかと買ってみる。壊れたら捨てればいいし、失くしても探さなくていいし、50%くらい充電できたら家まで持つし。でも買ってみたら不良品だったりするのかな、そしたらまた違うの買えばいいからさ、とりあえず今はこれで済ませよう。そんな程度のわたしです。

きっとわたしがうっかり人を殺しても、彼は怒ったりしないと思う。いつもみたいに、薄く開いた片目で見るの。そっか、そうだね、愛と無関心って、意外と似てると気がついた。わたしは大丈夫です、似たようなものなら別に、どちらでも。

 

たった数日前の出来事を、あんまりはっきり覚えてなくて、なんだかちょっと怖いんです。いつだって全部作り話なんだけど、夢で見た話くらいにぼやけてる。

春が来るとか聞いたんですけど

 

水の流れていない干からびた川。灯りのともらないイルミネーション。渋谷から恵比寿に向かって歩くと近づく大きな煙突、ただの清掃工場。山羊のいるカフェにいなかった山羊。夏を知らないふたりの関係。椅子にゴミの散らかった土曜昼間の京浜東北線。夕焼けが綺麗に見える3階の部屋。ホテルの浴室の窓から見えた広い広い工事現場。冷めてぬるくなったお風呂のお湯。

冬も終わるしもうこれも全部全部終わりかなって。わたしの好きな歌に興味はないだろうし。言われて嬉しかった言葉とか特にないし。行こうねって言ってた初詣も行ったし。行きたいねって言ってた温泉、別に約束はしてなかったし。ときどき夢に出てくるのはやめてほしいかな、もう会えないんだったら、やめてほしいな。

でも夜はまだ冷えるし、2月に雪が降ることもあるし、桜はまだまだ咲かないし。春っていうほど春でもないし。寒い間は終わりにするの早いかなって思うけど。ダメか、ダメだね、もうダメだよね。たぶん月末くらいには「失恋したの」とか言って、違う人の目を見て言ってんだよね、わたしって。だからダメなのほんとはちゃんとわかってます。行かないでとは言わないけどさ、もう少し居ませんか、って言いたいです。言わないです。

ピアスの結果です

「好きな人」ってあれ、好きだから、じゃなくてニックネームみたいな、わたしにとってはただの呼び名なんですけど。伝わらないか、伝わらないよね。みんな好きな人のこと、ほんとに好きなの?すごいね、すごいよ、意味わかんないよ、わたしには。いつだって自信を持てるのは「好きだった」って過去形の好きの形ばっかりだな。みんなすごいな。ほんと、すごい。

若さと可愛さがあればメッセージ一通でもお金を稼げるんだから、しょうもない男の子にLINE一通返すのなんて馬鹿らしいと思ってて、でもこの人との約束は他の予定をずらしてでもこじつけたいとか思っちゃって、だからとりあえず好きな人って呼んでみてるけど合ってそう?

狭い浴槽で「マッサージしてよ」なんて言われてよくわかんないけど適当に脚を揉んだりして、幼稚園の頃はよくお父さんにやってたな、くすぐったいって笑われたりしてたな、なんて考えながら。腕疲れたなあって前見ると、うとうと寝てる人がいて、これもこの人相手じゃなければお金もらえるのになあとか考えて、あ〜まつ毛長いなあって、もう考えるのやめた。

ラブホテルの石鹸ってなんであんなに香りが強いのかなって、不倫してるサラリーマンみたいなこと考えちゃった、隣に置いてある無香料のやつ使えばよかったな。今日つけてた香水、わたしあれ好きですって伝えたいのにな、まだ連絡は返ってこない。また約束が欲しくなる。増やしたピアスは気づいてもらえなかった。失敗です。

 

延長料金

何かのために文章を書いてるわけではないから、らしさ、とか特に必要ないんですけど、今日はちょっとだけ、らしくないかもしれないなあと思いながら書いてます。

人から面と向かって「死ねば良い」って言われたことありますか、わたしは2回。あります。これ多いのかな少ないのかな、わかんないけど、あれ結構傷つきます。中学生のとき陰で言われてた悪口よりも傷つきます。お母さんから育て方間違えてごめんねって言われた時と同じくらい、衝撃だけで言うとそれ以上、傷つきます。

好きかもしれない男の子から「誰とでも寝るんだね」って言われたことありますか。わたしそれも2回あります。誰とでも、じゃないのにな。

何回も修理に出してそれでも懲りずにリサイクル屋に売られた家電みたい、こんなボロボロもう買ってくれる人いないんですけど、捨てるにも粗大ゴミでお金がかかります。0円で良いから引き取ってよって、あーリサイクル屋のおじちゃん困り顔。不法投棄だけはやめてよね。

延長料金と愛情は比例しないです。3時間7000円1時間の延長でプラス5000円、トータル4時間12000円の価値は愛じゃなくて、じゃあそれ何ですかって、残念わたしにも分からない。この人、来月どんな気持ちでカードの明細見るのかなって思います。よくわかんない12000円の文字で、わたしの顔は浮かばない。高い延長料金は払っても、最後まで一緒には居てくれない。

夢に出てきたその人は全然優しくなくて、意地の悪い顔してて、それも何日か続けて出てきて。もう現実よりも夢のほうが鮮明になったりして。なんて思ってたのにな、広い浴槽に良い香りのする変なハーブの入浴剤入れて2人で浸かったら、そんな悪い夢、全部忘れちゃったりして。あと何日かすれば同じ夢見て、また夢のほうが濃くなるんでしょ、わかってるのにアホだよね。

その延長料金のぶんだけわたしに愛くれないかな。延長しなくていいからね、さっさと早く済ませるから、そのぶん愛してくれたらいいのに、えー、わかってる、無理だよね。12000円の価値、頑張るね。こんなんだから「誰とでも」とか、言われるんだよ、わかってるけど、わかってるんだよ。誰かに愛して欲しいってこれ間違ってるの?わかんないなあ。

 

1月8日の終わりの話

夏に好きになった人は誕生日を教えてくれなかった。もう会えなくなった今なら、それでよかったと思えるよ。やっぱり優しい人だったんだなって思ってます。

知らなければ何でも無いただの1日なのに、小学生の時の初恋の男の子の誕生日を大人になった今でも覚えていたりする。4月27日になると毎年あの男の子のことが頭に浮かぶ。

たった365個しか無いのに、その一つ一つをパズルのように埋められていくみたい。黒いペンで塗りつぶされていくみたい。赤いペンでバツをつけられているみたい。毎日おめでとうって言わなきゃいけないみたい。

人の誕生日はあんまり覚えてられない。

とか言って、たいして好きでもない癖に「好きな人」って名前をつけた彼に「おめでとう」を言うために、あと5分。起きてます。

今日もしょうもない女の子で安心するね。

幸せになれそうもなくて、安心するね。