君のアイスクリームがなんちゃらとか

 

8月の満月の夜にひとりぼっちは寂しくて、っていうより満月の夜なことを言い訳にただ会いたくて。

「明日の夜、暇?」なんて、実は生まれて初めて言った。言い慣れてるフリは上手にできた。

会いたい夜に会いに来てくれるなんてみんな最初だけだってわかってるから、あんまり喜ばないようにした。

そんなこと考えてる時点で7月30日のわたしとはもうどこか違くって、きっと何かが始まっちゃって、それはつまり終わりにも向かっていた。

いつも一人で歩く駅までの道を二人で歩いた。

これから毎日ここを歩くたびに、今日のことを思い出しちゃう気がして少し嫌だった。でも本当はすごく嬉しかった。

道で人とぶつかりそうになるたびに君は「すいません、すいません」って言っていて、その姿は全然男らしくなくて面白かった。

この前の夜のミルクティーを思い出して、余計に面白かった。

この夜に行ったお好み焼き屋さん、たぶんもう二度と行かないんだろうなって思う。君とならまた行きたいけど、きっとまたなんて無いんだろうなって。

お会計の時に感じの良いおじちゃんに「こんな時期だけど来てくれてありがとね、素敵な夜を過ごしてね」なんて言われて、また来たかったのになって思う。ごめんねおじちゃん。素敵な夜にしたかったよ。

たった一杯のお酒で酔っ払ったつもりになれるわたしは便利。よろけた時に君が腰に手を回してきて安心した。結局わたしは自分が女の子なことをしっかり分かってる。

酔っ払ったフリはフリじゃなかったみたい。記憶がふわふわしてる。でもあの夜は確かにあったし、初めて触れた手はちょっとひんやりしてた。

手を繋げなかった夜は、きっとまた会える、なんて思ったのに。

肌の温度を知った夜は、急にとっても遠くに感じて、ああもう会えないんだろうなって思った。

次の満月のころには、出会わなかったフリして同じ街で暮らすのかな。

 

ぜんぶウソだから、大丈夫なんだろうけど。