好きな季節の話

1年の中でいちばん嫌いな季節っていつ?誰かに聞きたくていつも聞けない 好きな季節を聞かなきゃいけないって法律でもある気がして怖い 

いちばん嫌いなのは冬 寒くてキラキラしててあったかいのがすごく嫌い すごく冷たい空気なのに電車はあったかくてみんな楽しそう 赤が緑が色が街に溢れて溢れて溢れ出したように見えてむしろ汚いくらいに電球がLEDが光ってる いつもはただ存在してるだけの木とかそういうのがみんなに見られてて木にすらも負けなきゃいけない季節になる いくら電球を纏ったって見てはもらえないそのまま焦げて死ぬことすら出来ない 寒い寒いって言いながら手を繋ぐ帰り道とか車の中から見えたツリーに騒いだりとか誰かの為に買うケーキとか 全部知らない

 

好きだと思いたかった好きになれたら幸せにしてもらえる気がして全部が受け身で自分の感情とかどうでもよくてだけどかわいいかわいいかわいくてたまらない自分の為に そんな自分を幸せにする為に好きでもない嫌いな人を好きなふりをする

一年で一番大切で尊いらしいその日に 行ったこともない街に連れていかれて 昔ドラマの中で見てた憧れの街は全然大したことがなくて何一つ輝いてなんかない ありふれた愛がそこらじゅうに落っこちていて何の価値もない夜 飲みたくもない美味しくないお酒を乾杯して一口だけ飲んだ テーブルの上に置かれていた少し変わった形のキャンドルくらいしか覚えてない 雑誌に載っていた大きなツリーも全然綺麗じゃなくてその周りに居る人達なんてもっと綺麗じゃなくて そんな風にしか景色を見ることが出来ない自分が一番汚かった この人とは というか人とはもう離れた方がいいなと思った そんな尊い夜に息をするなんて自分には似合ってない

 

この人と一緒に居ようと思ったきっかけは 好きだよなんて言葉じゃなくて 君のことを嫌いになることなんて無いよって言葉で 自分を好きだと言ってくれる人を目の前に でもいつかは嫌いになるでしょうと睨む自分だったから それならいいやと思った かわいい自分の為に自分の気持ちなんて簡単に殺して愛されることだけを選んだ選んだ間違いなく選んだんだけどダメな人間で愛されることだけじゃ満足できなくなった ホテルのベッドで涙が止まらなくなった日があった 愛されることに飽きて苦しくて涙が止まらなくて そんな私を見て微笑みながら抱いたその人は 本当に私のことが好きだったし それを望んでいた筈の私は何処かにいなくなってた 彼の手はいつも冷たく感じてた

 

寒い日の雨の中で まるで犯罪者にでもなったような気持ちで 幸せそうな家族とか仕事終わりのおじさんたちが通り過ぎていくのを何回も何十回も見送って 待ちたくもない人を待ってコンビニで欲しくもないジュースとお菓子を買ってもらって テレビとベッドしか無い狭い牢屋のような部屋で浴槽もない冷たいシャワーを浴びて 涙を流しながら欲しくもない愛をもらう夜に死にたくなるような気持ち 誰にも分かってもらえないんだろうし分かってもらいたいなんてことすら考えたらいけない 

 

そんなのはもうずっと前の話で あの日の自分から見たら今日の私は憎たらしいくらい幸せでしょ 幸せって思いなよ ってそれまたあの時と同じじゃん

 

ぜんぶウソの話なんだけど