鯨とミジンコ

あの日の話覚えてないかな、覚えてないよね。1人でぬるいお湯に浸かりながら、ぽつりぽつりと、自分の頭の中に浮かぶ前の、言葉と呼んでもいいのかわからないようなことばを呟いてます。誰かに伝えたいわけじゃないし、自分で覚えておきたいわけでもない。そんな無意味なもののせいで涙が出たりします。声に出すと全部ほんとになるって聞いたけど、声に出すと全部自分からするりと抜けていくような気がしてます。そうやって君も居なくなったらいいななんて思います。でも居なくなったらいいのは君よりもわたしだし、誰よりもわたしです。

もう全部なかったことでいいなと思います。でもわざわざなかったことにしなくても、とっくに君の中には残ってないし、わたしが今日死んだとしても君は知らない。近所の野良猫が居なくなったからって、探すわけない、興味もない。

なんか死ぬとかそんなこと言うと嫌がられるけど、生きてるんだから死ぬものです。実家に帰ればお母さんは精神科の薬を飲みます。お父さんにはお母さんみたいになるなよと言われます。お兄ちゃんはちょっとだけ優しい。だけどわたしは誰にも言えずに1人で泣きます。だってみんな居るのに居ないから。ひとりぼっちはわたしだけ。お金がないから稼ぎます。一生懸命働いたってお金は増えない、でもわたしは若くて少し可愛いから、価値があるって言われます。価値はお金にかわります。お金があれば生きてけるけどお金を手にするには死ななきゃならない。それって馬鹿にはよくわからない。なんだか価値とか関係なしに人に優しくされたいと思う日があります。ごめんなさい。でもそんなのいつも許されないし、結局何かを払って何かをもらう、それだけだってわかります。だから君も居なくなる。それだけだってわかります。こんなこと伝えたらまた遠くに行っちゃう気がします。だから絶対言わないけど、どうせ居なくなるなら言いたいなとかも思います。無意味なことが好きなわたしを、君はほんとに嫌うだろうな。