1300人だってさ
駅からの帰り道。ふたりで歩いた狭い道。
小さな居酒屋の前の汚れた古い室外機の上、小さな水槽が置いてあって、近寄ってみたら濁った水の中に大きな亀が沈んでて、ちょっと君に連絡しそうになった。
くだらない話をするのがちょうどいいくらいのくだらない関係でいたかった。まだそんなこと言ってんの?って、呆れてるよね、わかってます。
ねえあの亀見た?
なんでこんなとこに亀がいるんだろね、でもなんか可愛いねって、君ならきっと笑うよね。
君の代わりはもう見つかってるんだけどさ、でも君とその人とでは全然違うかな。
深夜2時にこの前会った野良猫を探したり、雨上がりに道路を這うミミズを枝に乗せて植木に連れていったり、変な形の水溜りを見て笑ったり、そういうことは絶対しない人。
毎日ニュースで流れる数字の中に、君が入ってたりしないかな。しないといいな、なんて考えてるの、おかしいかな。
もしあの数字の中の1人が君だったとしても、気がつくことってできないし。
もし明日、私が交通事故で死んだりしても、君に知らせることはもうできないね。
だったらたとえ会えなくても、君がいるこの町でもう少し生きてたほうがマシかもな、なんて思ったよ。
また会いたいとかまた手を繋ぎたいとか、頭撫でてほしいとかもう言わないからさ、元気で居てよ、笑っててよ。もう悲しい顔、しないでよ。これ、ほんとに思ってるよ。
わたしはこの先もきっとずっと変われなくてさ、しょうもない、ろくでなしの女の子。
欲張って食べすぎて飲みすぎて、時々お腹痛くなったりしてさ、でもほんとに好きなものは最後に取っておくタイプだから、結局食べられないまま終わったりして。
「わたし頭悪いから」って言うといつもムキになって「悪くないよ、賢いよ」って言ってくれたね。ごめんね、言ってくれたのにね。
わたしが「優しいね」って言ったとき「優しくないよ」って返してきたね。
わたしももっと言えばよかったな、って今更思った。優しいよ、誰よりも優しかったよ。その優しさに今も勝手に救われてたりするよ。
届けるつもりのない文章、砂浜に書いた文字みたい。ただ過ぎてくだけの深夜の時計の針みたい。